ラーヴァナの系譜
阿修羅の王ラーヴァナは梵天の直近の子孫だ。
上村勝彦『インド神話』によればこうである。
梵天の息子プラスティヤの子に、ヴァイシュラヴァスがいる。その息子がヴァイシュラヴァナ(クベーラ)、毘沙門天だ。ラーヴァナの本拠ランカーは、元はこのヴァイシュラヴァナのものだった。
羅刹はもと、水の守り手として太古に梵天が作った生き物である。そのうちにスマーリンという者がいて、娘カイカシーをヴァイシュラヴァナに嫁がせた。生まれたのが、ラーヴァナ、クンバカルナ、シュールパナカー、ヴィビーシャナ。
というのがヴァールミーキ版『ラーマーヤナ』に語られるラーヴァナの系譜だ。
アショーカ・K・バンカー、われらが AKB は、ヴァイシュラヴァナをラーヴァナの兄、シュールパナカーをラーヴァナの妹ではなく、従妹にしている。前者は『マハーバーラタ』の所伝にしたがったものだろう。後者の典拠はわからないが、AKB のまったくの創作ではないはずだ。
『蒼の皇子』はじめに登場するカラ=ネミはヴァイシュラヴァスの弟。すなわちラーヴァナの叔父である。
『マハーバーラタ』での所伝では、ヴァイシュラヴァナ、ラーヴァナ、クンバカルナ、ヴィビーシャナ、シュールパナカーはすべて異母兄弟(うちラーヴァナとクンバカルナの母が共通)。父親はプラスティヤである。
いずれにしてもラーヴァナは梵天の孫ないし曽孫にあたる。
そのラーヴァナがなぜ、神々と敵対するか。ここがどうもよくわからない。不死身の体と梵天力を自在に操る力を与えられるのは、千年におよぶ激しい苦行のおかげだが、そうした力を得たから敵対したのか。あるいは他の神々が、梵天の孫ないし曽孫に相応の敬意を払わなかったからか。あるいは、財宝の神となり、世界守護神の一人となり、ランカーを治め、多数の美女を抱えた兄ないし父のヴァイシュラヴァナに嫉妬したのか。
この三つ目の理由がいちばん有力ではある。大きな力を持ってから、ラーヴァナはヴァイシュラヴァナすなわちクベーラの都市を襲い、天車プシュパカをはじめとする財宝を奪い、ランカーをも乗取る。
しかし、それだけではどうもない。その後もラーヴァナは天界=スヴァルガ・ロカに侵攻し、そして地上界=プリスヴィーをも征服しようとする。その動機は何か。世界征服者といえど、何の理由もなく世界征服を企てることはない。
何が、ラーヴァナをそこまで狩りたてるのか。
おそらく、最終巻『蒼の王(仮題)』で明らかになると予想する。