女性キャラの活躍

 『ラーマーヤナ』では女性が活躍する。ラーマの妻であるシーターはもちろんだが、ラーマの母カウサリヤーを始めとする3人の王妃、第二王妃カイケーイーのダイイマア=乳母(めのと)であるマンタラー、あるいは阿修羅側でラーヴァナの従妹であるシュールパナカーなど、物語をドライヴする力の大半は女性が握る。むしろラーマは彼女たちが引起す事態に受身になって対処しているようにすら見える。


 物語の前半、第3部『樹海の妖魔(仮)』までを動かす最大の力はマンタラーだ。


 「ダイイマア」というのはアーリア社会の風習で、階層の高い、あるいは裕福な家の女性の産婆をつとめ、乳母となり、女性が長じてはその相談役をつとめる。「めのと」というのが一番近いと思うが、春日の局のイメージだ。


 マンタラーはカイケーイーのダイイマアだが、普通のダイイマア以上の力をカイケーイーに対してふるう。むしろカイケーイーはマンタラーの操り人形だ。


 マンタラーはまたラーヴァナの手先でもあるのだが、彼女がそうなった理由は表面的な体の不自由さや生まれながらの境遇だけではないことが、第三部にいたってわかってくる。マンタラー自身はもちろんヴァールミーキ版以来の『ラーマーヤナ』のキャラクターであり、重要な役柄ではあるが、アショーカは彼女の役柄を増幅して、物語にいっそうの緊張感をもたらし、スリルを生むことに成功している。


 もう一人というか一匹というか、鍵を握るのがシュールパナカーである。


 この女羅刹(ラクシャーサ)または女夜叉(ヤクシャーシ)は『蒼の皇子』ではいたずら好きの単なる駄々っ子のように見えるが、なかなかどうして、おもしろい存在になってゆく。


 著者はこのシュールパナカーを重要なシーンの観察者として、第三者の視点を提供するのに利用する。シュールパナカーはラーヴァナの従妹であり、基本的に人間には敵対するが、同時に単独行動者でもあって、羅刹と人間の戦いでも、たいていは傍観者になる。そして漁夫の利を得ようと画策する。その立ち回り方がなかなか巧妙なのだ。


 そうして後半では、ラーヴァナの復活に関わって、その地位が一層おもしろくなる。彼女が最後にどうなるか、大きな興味の一つではある。