人類の記憶

 一人の人間の胸の中には、全人類の記憶が宿っている。
 とプラトンが言った、と隆慶一郎が言う。
 そうしてかれは、
「おのれの染色体に染みこんだ、
古代人の記憶を掘り起こす作業」
を飽きもせず、死ぬまで続けた。


 アショーカが行っているのも、まったく同じ作業だ。
プラトンの仲間たちが語りつたえた
イリアス』『オデュッセイア』に全人類の記憶が宿っているごとく、
アショーカが仲間たちとともに語りつたえる
ラーマーヤナ』にも全人類の記憶が宿る。


 遠藤周作井筒俊彦との対談で言っている
「物語の原型」
も、同じことだろう。


 つまるところ物語を語るとは、
「おのれの記憶の中に深く深く潜りこ」んで、
全人類に共通する、
古代人の記憶を掘り起こすことに他ならない。


 『一夢庵風流記』の前田慶次郎素戔嗚尊の末裔ならば、
ラーマもまたスサノオである。
 いや、スサノオもラーマも、同じ人間の別の顔である。