台詞の文体

 第3巻『樹海の妖魔』(仮題)翻訳作業。ここのところ雑用や他の仕事に時間をとられて、腰を据えてできたのは久しぶり。嬉しい。この翻訳はとにかくやっていて楽しく、いつもやりたくてしかたがない。

 やっていて楽しいといっても作業そのものが楽なわけではない。むしろこの第3巻にいたって著者の筆は一段ギアがあがって、ただでさえ滑らかだった文章に磨きがかかって、流麗とでも言いたいほどになる。音読しているだけで引込まれそうになるくらいだ。これを日本語にするのは筆の滑らかさに反比例して難しくなる。思わず立ちどまり、辞書を引き、原文を読み、また別の辞書を引き、外を見、さめた珈琲を口に含み、また原文を読みなおし、前後を読み、ネットで検索し、書いては消し、書いては消し、という作業を繰返すことになる。

 はっきり言って苦しい。しかし、その苦しさが楽しい。著者の文章に取組み、なんとかそれを母語に置換えようとする作業全体が、楽しくてしかたがない。

 今日はパラシュラーマとラーマとの対決シーンの続き。しかし、パラシュラーマの言葉遣いにまだ迷う。はじめ思いきり擬古体を試してみたが、今の読者にはやはり無理だろうし、第一こちらの力が不足。とはいえ、まったくの現代語にしてしまうのもどうしてもそぐわない。結局初稿はふらふらと定まらないまま進んでいる。浄書の段階で統一するつもりだが、まだ落とし所は見えない。当面、試行錯誤を続ける他ない。