見せる文章

 やはりアショーカの『ラーマーヤナ』は朝一番にやると調子が良い。まだ、しかし本当にエンジンがかからない。手探り状態。もう一つの仕事を早く終らせたいが、こいつがまた面倒。

 ペンはペリカンペリカーノ。インクはペリカンのコバルト・ブルー。このペリカーノがまだ今一つ手になじまないのも、エンジンがかからない原因の一つか。

 それにしてもアショーカの文章は、描かれているシーンをまざまざと眼の前に浮かびあがらせる。第1部『日輪の蒼き皇子』(仮題)のクライマックス、「恐怖の森」=ダンダカ・ヴァナでの羅刹たちとの戦いや、第2部『聖都決戦』(仮題)の最後のどんでん返しのシーンが象徴的だが、読んでいると自然に情景が浮かんでくる。作家自身は書いているシーンがはっきり眼に見えていることはよくあるが、読者にもはっきり見える、それもここまではっきり見せるのは並大抵の技ではない。

 ああいうスケールの大きな、映画の大画面でみたらさぞかし気持ちが良いだろうと思えるシーンだけではなく、ごくごく小さな、わずかな表情の変化や小さな虫の動きでも、情景のあざやかさは際立っている。

 といって、何もかも輪郭が明確というのではなく、ぼやけているところは適度にぼやけているように見える。

 仕事をしていて気持ちが良いのも、そのせいだろうか。アショーカの他の作品でもこう気持ちよく、やりたくてしかたがない感じができるかどうか。あまりエンジンがかからないようなら、短篇を一つ、やってみるのも良いかもしれない。とはいえ、そうそうのんびりもしていられないのではある。