おのれの正体

 ラーマはヴィシュヌの化身(アヴァター)だが、本人はそのことを知らない。その点ではパラシュラーマも同じで、だから二人は『ラーマーヤナ』の中で対決できる。


 ラーマの後のヴィシュヌの化身であるクリシュナは、自分が神の降臨であることを自覚している。だから『マハーバーラタ』の中で「パガヴァット・ギーター」を説くことができる。


 アショーカ版第三部、パラシュラーマとの対決でパラシュラーマが斧を振るった直後のシーンは、自分が何者か、ラーマが最も深く疑うところでもある。「汝、何者や」とのパラシュラーマの問いにラーマがなかなか答えず、答える時もひどく小さな声なのは、その疑いの深さを示す。おそらくこの疑いの谺は、クライマックスのラーヴァナとの対決で今一度顔を出すのではなかろうか。アショーカ版最終巻『日輪の蒼き大王』(仮題)の楽しみの一つでもある。


 その間、おのれの正体への疑いは、表面には出てこない。しかし、ひょっとするとそれはずっとラーマの意識の底にあって、ラーマを動かす隠れた動機になっているのかもしれない、と今日になって気づいた。この後の読解・翻訳に関わってくる。ひょっとするこれまでの読みががらりとひっくり返る可能性もないとは言えない。


 作業がなかなかのれず、少しずつしか進めないことも、メリットもあるものだ。