血と塵と灰

 『ラーマーヤナ』に「主張」があるとすれば、唯ひとつ、これだろう。


 『樹海の妖魔(仮)』第一部「平和」19章、初校ゲラでは210pp.


その瞬間だった。
同じような瞬間には人生で何度となく向きあってきたが、
中でも最悪のこの瞬間、
自分はここで死ぬ、
戦略地点の一つである台地へ通じる、
この埃だらけのせまい谷で、
おれは死ぬのだ、
とダシャラタはさとった。
いくさでほんとうに手に入るものは唯一つ、
灰と塵だけ、
とまたしても思いしらされた。
思いしるのはあまりに簡単だが、
忘れるのはもっと簡単だ。
灰と塵以外に
報酬としてえられるものは何も無い。
人が愚かにも何よりも熱心に求める、
黄金も、
栄光も、
ましてや平和など手に入りはしない
――大々的な虐殺と憎悪が、
流血もなく、
罪もない、
平和のようなものを生みだせるとでもいうのか。
残るのはただ血と塵と灰だけだ。