歴史の脚注

 「それでおまえは何を手に入れるんだえ」
 マンタラーはやり返した。
怒気が上がるにつれて、
声も高くなる。
 「寺で婆羅門たちがおまえを讃えてくれることかい。
おまえの勲(いさお)しや勝利を酒場で吟遊詩人たちがうたってくれることかい。
じょうだんだろ。
今から千年もたちゃ、
おまえの勲しや勝利なんて忘れられてるさ。
おまえの親子の情や兄弟たちに忠実だったことなんぞ、
歴史の年代記のただの脚注さ」


 「少なくとも脚注ぐらいの価値はあるわけだな。
おまえはそれすらも値しないのだ、
裏切り者め」

『樹海の妖魔』第二部「所有せざる人々」7章