空想の帝国
ジャワーハルラール・ネルーが
『アラビアン・ナイト』について語ったことばは、
そのまま『ラーマーヤナ』にもあてはまる。
アッバス家のカリフたちと、
その帝国のことは知らなくても、
あの神秘とロマンスの都、
アルフ・ライラ・ワ・ライラ(千一夜物語)のバグダードなら知ってる人は、
かぞえきれないほど多い。
空想の帝国は、
ときに現実の帝国よりずっと現実的で、
長い生命をもつ。
『父が子に語る世界史 2 中世の形成』大山聰=訳、みすず書房、057pp.
『ラーマーヤナ』の源には、
現実のラーマたちがいただろう。
ラーマやシーターやラクシュマナという名前ではなかったとしてもだ。
あるいはアーリヤ族ですら無かったかもしれない。
とまれ空想の王国のなかに生まれかわったラーマたちのふるまいと言動は、
現実に生きた人びとなど比べものにならないほど、
生き生きと伝わり、
現実の作用を生みつづけている。
空想より現実が大事という人は、
眼の前の現実の奴隷となり、
おのれを見失っている。
現実の中に生きれば、現実は変えられない。
空想の中に生きる者だけが、現実を変えてゆく。