翻訳者冥利

 未完で、しかも完結の予定が今のところ見えない本について
こう言うのはふさわしくないかもしれない。


 けれどもここまで読みこんでくださる嬉しさは、他では味わえない。


 続きが出せるかどうかは、訳者には決められない。
もどかしくはあるが、どうにもならないのである。
訳者としてはひたすら作業を進め、
いつゴー・サインが出ても良いように、準備をしておくのみだ。
あとは、ひとりでも多くの読者が、
この物語の面白さに気づいてくれるよう、
祈るほかない。


 とはいえ、このとんがりやまさんのような声が重なってくれれば、
「山も動く」可能性が出てくる。


 続きを、ぜひ最後まで読ませろ、
という声をあげてほしい。
出版社に訴えていただきたい。


 なにしろ話はこれからなのだ。
圧倒的な羅刹軍との戦いの決着も、
ハヌマンとラーマの出会いも、
ラーヴァナの復活も、
復活したラーヴァナによるシーターの誘拐も、
ラーマがハヌマンをはじめとする「智恵ある猿」たちの援軍を得る次第も、
ハヌマンの覚醒も、
ハヌマンによるランカーへの偵察と破壊も
ランカーにかかる空前絶後の橋も、
そしてランカーでの最後の大決戦も、
話はますますおもしろくなる一方なのである。


 翻訳作業自体は『神猿の軍勢(仮)』の4分の1ほどのところ、
羅刹軍との戦いにけりがついたところまで来た。
どうしてもサブの仕事になるので、思うように進めない。
それでも毎日、たとえ一段落だけでもやるようにしている。
とにかく少しでも進めることで、日々生きてゆく糧となる。


 そしてこのような読者からの反応もまた、
作業を進めるエネルギーとなる。
作家もそうだろうが、翻訳もまた孤独な仕事だ。
一面灰色の霧の中をとぼとぼと歩きつづけるのに似ている。
歩きながら、霧にむかって必死に叫んでいる。
そういうとき、
聞いているよ、
続きを聞かせてくれ、
の声が聞こえることほど嬉しいものはない。


 ありがたや、ありがたや。