ガンダルヴァ

 同じものが様々な違う名前で呼ばれるのは
ラーマーヤナ』をはじめとする
インドの神話・伝説ではごく普通だが、
同じ名前がほぼ反対のものを指すこともある。


 アショーカ版では「ガンダルヴァ」は
本来の意味である「天の楽士」とともに、
阿修羅(あすら)
つまり神々(デーヴァ)と敵対する勢力の
一種族にも使われている。


 『樹海の妖魔(仮)』では
ミティラーでの破局の後のランカーの描写でも出てくるし、
さらにダンダカの森に向かうラーマたちが遭遇する
阿修羅、ある僧院の婆羅門たちを襲い、
退治しにやってきたクシャトリヤたちを返り討ちにしていた阿修羅は
ガンダルヴァである。


 少し調べてみると、
ガンダルヴァギリシア神話ケンタウロスともつながる、
半人半獣とされているようだ。
下半身が鳥、両肩に翼という姿もあるらしい。
どうやら天界(スワルガ・ロカ)の住人には珍しい、
異形の存在なのだ。


 その一部が
キリスト教のルシファーのように
地獄に落ちて阿修羅の一種となったのか。
あるいは、
まったく別系統ながら
たまたま姿形が極めて似ているために、
同じ名前で呼ばれたものか。


 どちらにしても、訳す方は困ったものである。