「まれびと」

人のこころが共同体の「外」からやってくる、 どこか異質な体験に触れたとき、 はじめて文学や芸能や宗教が発生してくる。 「古代から来た未来人」 『NHK知るを楽しむ 私のこだわり人物伝 2006年10月11月』 日本放送出版協会、108pp. 折口信夫はそう考え…

ランカーまでは何由旬?

インドは遠い。 『ラーマーヤナ』にのめり込むほどに、 インドの遠さが身にしみる。 『天竺までは何マイル?』とは 中野美代子氏の秀逸なエッセイ集の秀逸なタイトルだ。 『ラーマーヤナ』を訳しながら、何度そうたずねたくなったか。 インドにはいつになっ…

空想の帝国

ジャワーハルラール・ネルーが 『アラビアン・ナイト』について語ったことばは、 そのまま『ラーマーヤナ』にもあてはまる。 アッバス家のカリフたちと、 その帝国のことは知らなくても、 あの神秘とロマンスの都、 アルフ・ライラ・ワ・ライラ(千一夜物語…

グハ

『ラーマーヤナ』の登場人物のうち、一番の異色はグハだろう。 ラーマたちアーリヤ族とは異なる、ニシャーダ族の棟梁(王)である。 グハは全篇でただ1ヶ所しか登場しない。 『樹海の妖魔』第二部「所有せざる人々」15章から 第三部「妖魔襲来」7章にかけ…

愛の本質

『ラーマーヤナ』に含まれる物語は『西遊記』だけではない。 敵にさらわれた妻を救いだすために大戦争を起すのも「原物語」の一つだ。 この点では『イリアス』と共通する。 どちらがどちらに影響を与えたというよりも、 共通の「物語のもと」があり、 そこか…

インドへの入口

ぼくはアショーカの『ラーマーヤナ』を読むまで、 インドにはごく表面的な関心しかなかった。 『ラーマーヤナ』の名前は知っていたが、 あらすじさえ知らなかった。 まったくの白紙で出会った。 インドについて、『ラーマーヤナ』についてあれこれ調べだした…

叙事詩?

アショーカ版『ラーマーヤナ』邦訳を機に わが国でもインドの叙事詩についての関心が広まらんことを、 と言われることがある。 まったく同感。 とは思うものの、ひとつ引っかかりもする。 「叙事詩」という呼び方だ。 当初はぼくも 『ラーマーヤナ』と『マハ…

歴史の脚注

「それでおまえは何を手に入れるんだえ」 マンタラーはやり返した。 怒気が上がるにつれて、 声も高くなる。 「寺で婆羅門たちがおまえを讃えてくれることかい。 おまえの勲(いさお)しや勝利を酒場で吟遊詩人たちがうたってくれることかい。 じょうだんだ…

『ラーマーヤナ』と『ドラゴンボール』

『ドラゴンボール』は孫悟空の物語だ。 孫悟空はハヌマンの子孫である。 中野美代子氏の言葉を借りれば、 インドから、南海をめぐって 福建に渡ってきたハヌマーンが、 中国固有の民話の中のサルたちを刺激して、 ここにまったく新しいサルが 花果山の頂の石…

異質さの体験

フランスで『ドラゴンボール』の翻訳をしている女性のインタヴュー記事。 ダジャレや言葉遊びの翻訳の苦労にも膝を打って共感するが、 一番深く頷いたのはここ。 訳し方は翻訳者が決めるので、 道具や人物名、必殺技を「フランス語」に訳す人もいますが、 私…

ダルマ

今朝は気温の数字はそれほど低くなかったが、 朝方晴れたためか、冷えた感じが強かった。 毎日更新するのは難しい。 朝から終日外出して、深夜くたびれて帰ってくると、 書くことはあっても、パソコン画面に向かう気がわかない。 間もなくインドの首相が来日…

人類の記憶

一人の人間の胸の中には、全人類の記憶が宿っている。 とプラトンが言った、と隆慶一郎が言う。 そうしてかれは、 「おのれの染色体に染みこんだ、 古代人の記憶を掘り起こす作業」 を飽きもせず、死ぬまで続けた。 アショーカが行っているのも、まったく同…

メール・インタヴュー

「本のメルマガ」の記事のための の回答を書いて送る。 何やらふつふつと湧いてきて、 延々と書いてしまう。 始め書いたものは いくらなんでもこれはないだろうと 我ながら思うくらい長くなる。 削りに削る。 ガネーシャ様、無事記事になりますように。

追いこみ

昨日は『ラーマーヤナ6:樹海の妖魔』下巻の 再校白ゲラに赤を入れたものを、 編集部に持参。 担当のGさんが今週末点検、 来週頭にもどし。 三校を出張校正することになりそうだ。 1月はじめの発売なので、 年内に本ができていなければならず、 下版は20…

『ラーマーヤナ』原版の近況

公式メーリング・リストに流れた著者のメールによると、 来年4月、インド・ペンギンから 『ラーマーヤナ』のハードカヴァーが刊行されます。 ペーパーバック・オリジナルで出た本が、 シリーズ完結後にハードカヴァーで出るのは インドではもちろん、 世界…

「引き」

ようやく家の周りの樹々も本格的に紅葉してきた。 つい先ほど、『樹海の妖魔』下巻の再校ゲラが着く。 上巻同様、編集・校正の赤が入っていない 通称白ゲラである。 一緒に巻末「資料集」、 主要登場人物表、 前巻までのあらすじ、 奥付 等々のゲラも入って…

トリックスター

今朝は冷えた。 ようやく本格的に寒くなってきた。 週末、山中湖へ行ったので、寒さはそこから続いている。 先週金曜日に 『樹海の妖魔』上巻のゲラを送り、 下巻はまだ来ないので、 ちょっとぽかんとしている。 他にやることはたくさんあるが、 気持ちがそ…

お守り

今朝は寒いというので 布団を1枚よけいにかけたら、 かえって汗をかき、 体が冷えてしまった。 一昨日から昨日にかけて、 別の仕事で山中湖に行っていた。 半分ほど雪をかぶった富士がきれいだった。 一昨日出かける直前に、 『樹海の妖魔』上巻再校ゲラに…

男どもよ! その2 妻の役割

『樹海の妖魔』上巻再校ゲラ校正続き。 合間にこの上巻の巻頭に入れる予定の 「これまでのあらすじ」 の原稿を書く。 上巻の頁数はぎりぎりのため、 これを入れるために 再校をチェックしながら 頁数を減らす。 具体的には 最後のページが 1行ないし2行だ…

男どもよ

曇って寒い日。洗濯物が乾かないよー。 『樹海の妖魔』上巻再校ゲラの素読み。 時間がないので再校は白ゲラ、 つまり校正の赤が入っていない状態で素読みをすることになった。 しかも特急。 ふと眼にとまった一節。 その瞬間、 シーターにはわかった。 どん…

父親

父親にとって最もしあわせなことは何か。 人間としてでもなく、 男としてでもなく、 父親として、です。 ひとつの答えは、 最高の子どもを持つこと。 息子でも娘でも、どちらでもかまいません。 父親にとっては、子どもが「りっぱ」に育つことが重要です。 …

梵仙

『ラーマーヤナ』前半には ヴァシシュタとヴィシュワーミトラの 二人の梵仙がメイン・キャラとして活躍します。 この二人のうち、ヴィシュワーミトラは なかなか面白いキャラクターです。 そして『ラーマーヤナ』が、 「原典」のヴァールミーキ以来、 ラーマ…

原文に還る。

『樹海の妖魔』冒頭の1章の訳が固すぎる とのクレームが編集から出て、 ここだけ新たにやりなおし。 原文は美しい文章ですが、 往々にして美しい原文は日本語にしにくい。 原文の美しさに眼がくらんでしまうと、 日本語がおかしくなります。 日本語ばかりを…

正義の傷

今にも雨が降りそうで寒い日曜日。 こういう日こそ外に出るとおもしろい。 こういう日でも出ている人びとは、 相応の理由を背負っているからです。 その人びとを見ていると、 そこはかとなく親近感がわいてきます。 あなたも仲間だと 抱きしめたくなります。…

星空

昨夜は遅くなり、タクシーを降りて見あげると オリオンとシリウスが南の空にかかっていました。 あの星々が美しく輝きだすと、寒くなります。 そういえば、『ラーマーヤナ』では あまり星空は出てきません。 占星術は古くからあり、 物語の中でも何度か話に…

「資料集」

明け方はまだ曇っていましたが、 陽が昇るにつれて青空が広がり、 柔らかなひかりが射してきました。 アショーカ版『ラーマーヤナ』の 英国版(インド以外の全世界で流通している版)には 各巻の巻末に "Glossary" が付いています。 本文中にたくさん使われ…

アヒンサー

曇って気温が上がりません。 これでまた紅葉が進むでしょうか。 先ほど、『樹海の妖魔(仮)』下巻の初校ゲラを 宅急便で送りだしました。 明日、午前中には着くでしょう。 ガンディーがインド独立運動の原理として 採用した「アヒンサー」は、 本来ヒンドゥ…

初校ゲラ

ようやく、初校ゲラのチェックが一通り終わりました。 こちらだけでは解決できない疑問点を整理して、 著者にメールします。 ふつうなら今日中には回答が来るでしょう。 それを踏まえて、ゲラを修正し、明日には発送。 なんとか週内に編集担当にもどせそうで…

菩提樹

インドの話を翻訳していて 困ることのひとつは、 動植物の名前である。 われわれにはなじみがないものがほとんどなのだ。 これが欧米のものだと、 小説などの文章以外に、 われわれは様々な形でその文物に日常的に触れている。 日本にはふつういないものでも…

ガンダルヴァ

同じものが様々な違う名前で呼ばれるのは 『ラーマーヤナ』をはじめとする インドの神話・伝説ではごく普通だが、 同じ名前がほぼ反対のものを指すこともある。 アショーカ版では「ガンダルヴァ」は 本来の意味である「天の楽士」とともに、 阿修羅(あすら…