マンタラーとカウサリヤー

『樹海の妖魔(仮)』 第二部「奪われた人びと」の最後で、 カウサリヤーはコーサラの摂政となり、 マンタラーは最後を迎える。 アショーカ版『ラーマーヤナ』前半三篇は ラーマの物語というよりは、 女たちの物語ではある。 かたやカウサリヤー、 スミトラ…

ルビ

アショーカは 英語で『ラーマーヤナ』を書いているわけだが、 その中にサンスクリット語やヒンディー語の 名詞やフレーズが頻繁に使われる。 欧米の小説で言えば ラテン語やギリシア語を使うのに近い。 英語では正確な対応物がなかったり、 物語に独特の雰囲…

小説に説明はいらない。

『樹海の妖魔(仮)』初校ゲラで 編集校閲から出たいくつかの疑問点を著者に質問したら、 熟考の上、 これらはそのままにしてくれとの返事。 たとえば、第一部「平和」の前半で、 ミティラーでの婚礼を終えたラーマたちの一行が アヨーディヤーに入って市民…

法の刃(やいば)

『樹海の妖魔(仮)』第二部「奪われた人びと」5章、初校ゲラで上巻322ページ 法の刃(やいば)を おのれの私利私欲のためにふるう者は、 いくばくもなくして、 同じ刃を 自ら受けることになりますぞ。

文語コンプレックスから物語のネットワークへ

文語に対するコンプレックスがある。 原文がちょっと古風な言回しだと たちまち気どって 文語をふりまわす。 が、実際には正確な文語が使えるわけもない。 『樹海の妖魔(仮)』冒頭に登場する 斧を持った婆羅門パラシュラーマのセリフの文体をどうするか 悩…

血と塵と灰

『ラーマーヤナ』に「主張」があるとすれば、唯ひとつ、これだろう。 『樹海の妖魔(仮)』第一部「平和」19章、初校ゲラでは210pp. その瞬間だった。 同じような瞬間には人生で何度となく向きあってきたが、 中でも最悪のこの瞬間、 自分はここで死ぬ、 戦…

エキゾティズム

ゲラに赤字を入れる作業は楽しい、 というのは他人の原稿やゲラが相手の時である。 自分の原稿に入れられた赤字を点検するのは、 身を切られるのに等しい。 さんざん悩み、 原文と格闘し、 ネットを駆使して調べまくり、 ようやっとひねり出した訳文に、 「…

ゲラの校正

作業は『樹海の妖魔(仮)』上巻初校ゲラ続き。 坦々と、 ひたすら坦々と、 入っている赤字を確認し、 これはOK、 これはこういう風に修正、 としていしてゆく。 時に ちゃうちゃう、それはあんたの勘違いじゃ、 いや、そうじゃない、こちらの意図はこうな…

オマージュ 『樹海の妖魔(仮)』第2部「奪われた人びと」と、 巻末資料集のゲラが届く。 尻を叩かれている気分。 もちろんこのタイトルはル・グィンへのオマージュ。 ちなみにこの『樹海の妖魔(仮)』で 各部のタイトルに使われている作品4点のうち、 邦…

「パンディタ」と「プローヒタ」

午後も遅くなると多少雲も出るが、 朝から昼過ぎまでは 一点の雲一つない快晴 が続いている。 息子は登校拒否になるわ、 かみさんはぎっくり腰だわ、 娘は親をばかにして言うことは聞かないわ、 でなかなか作業に集中できない。 こういう時はあせらず、あわ…

著者への問合せ

今朝も一点の雲一つない快晴。 その代わり、かなり冷えこんだ。 車のフロントガラスも一面に結露。 『樹海の妖魔(仮)』上巻の初校ゲラの赤をひととおり見て、 ぼくだけでは解決できない矛盾点を整理して著者にメール。 原文に残っている矛盾点は 読んでい…

シーターとジャナカ

朝は一点の雲一つなく晴れていた。 いつの間にか雲がでたと思うと またさんさんと陽光が降りそそぐ。 作業は『樹海の妖魔(仮)』上巻初稿ゲラの校正。 読者からの質問に、シーターはジャナカの娘のはずだが、 それとは矛盾する記述がある、 というのがあっ…

モチーフ

今朝は雨が降って肌寒かったのが、陽が出てきたら少し暖かくなった。 と思ったら、今度は風が強くなっている。 家の前の桜がほとんど裸になっている。 作業の方は現在第三篇『樹海の妖魔(仮)』の初校ゲラが出てくるのを待っている。 出てくるとまた大特急…

『聖都決戦』発売 われらがアショーカ版『ラーマーヤナ』第2篇『聖都決戦』が上下二分冊で発売になりました。 低価格税込1,890円也。増ページで同定価! 出血大サービス! お近くの書店にない場合はネットでどうぞ。 楽天ブックスはこちら。 上巻 下巻 bk…

「聖賢」と「見者」

次は魔法のシステムについて書くと予告したのですが、 その前にもう一つ、基本的な質問をいただいていました。 ヴァシシュタやヴィシュワーミトラは、 一つのパラグラフ(段落)の中でも 「聖賢」と「見者」の二つの呼び方をされることがあります。 これはど…

婆羅門の階梯

Bフレッツのトラブルでしばらくネットにつなげませんでした。 たまにはネットから離れるのもいいもんですね。 第二篇『聖都決戦』上下(『ラーマーヤナ』3&4)が来週発売になります。 ヒロイン、シーターが登場します。 超戦士となったラーマとラクシュ…

再開

またまた、あいてしまった。 仕事にも一段落ついたので、 これからはできるだけ定期的に、最低でも一週間に一度は更新したい。 書きたいことはいくらでもある。 この間、なにをやっていたかと言えば、 まずは第三篇『樹海の妖魔(仮)』の翻訳の仕上げ。 前…

追いこみ

第三篇『樹海の妖魔(仮)』の作業が追いこみに入っている。 さぼっていたわけではないが、 この篇はシリーズ中最大のボリュームで、 ラスト直前の胸突き八丁がいつもよりつらい。 とにかくアップまで、 すべてのイベント、予定はキャンセルして、 ひたすら…

暴力

ムンバイで起きた鉄道爆破事件には驚いた。 インドでは爆破や武装集団による一般住民の殺害などは、 そう珍しくないのだが、 ムンバイの事件はどこか「非インド」的な匂いもする。 といって、インドのことをよく知っているわけではなく、 ふだんネットで見て…

ラーヴァナ像

現在発売中の『ダ・ヴィンチ』8月号に 見開き2ページで紹介記事が載った。 ぼくも話を聞かれたのだが、 とてもうまくまとめられて、ありがたいことではある。 それよりも気に入ったのはタイトル・バック、 というか冒頭に掲げられているイラストで、 それ…

『ラーマーヤナ』初期形態

NAMAAN というブログ検索エンジンの記事が目についたので、 この検索サイトで「ラーマーヤナ」を検索してみる。 その結果の中で教えていただいた John Brockington & Mary Brockington (tr.), Rama the Steadfast: An early form of the Ramayana Penguin Bo…

美しい文章、練達の語り

第三篇『樹海の妖魔(仮)』の手書き原稿を改訂しながらの打込みを始める。 締切は今月末。 そろそろスパートをかけないといけない。 本来はもっと前にかけるつもりだったが、 人生ままならぬものである。 この篇から著者の筆、というかタイプライターという…

「いま、神話を語り直すということ」

というわけで、ぼくは著者からバトンを渡されてしまったわけである。 どうしてぼくなどが渡されることになったのか、それはまたおいおいということで、 早くもバトンを受取ってくださった読者もおられる。 畏友とんがりやまさんが ご自分のブログ「踊る阿呆…

マアツィ・ナローティ

締めくくりに 同様な道をたどった二人の尊敬すべき著者から 短い引用をすることをお許しいただきたい。 一つめはK・M・ムンシで、 かれの『クリシュナヴァタラ』シリーズは、 古代の物語の現代における語りなおしのジャンルで、 手本となる作品の地位を守…

巨人たちの足跡を踏んで

ひとつ、はっきりさせておきたい。 これはヴァールミーキの物語ではない。 カンバンのものでもない。 トゥルシーダースのものでもない。 ヴィヤーサのものでもない。 R・K・ナラヤンのものでもない。 ラジャージの、楽しい子ども向けの縮約版でもない。 こ…

わがラーマーヤナ:個人的遍歴

それでもなお、 様々に異なる版や変装の民主的ごたまぜの方が良いか。 それとも断片的にしか回復することのできない、 ほとんど忘れられた神話のように、 忘却され廃れてぼんやりと思い出されるだけの物語であった方が良いか。 ヴァールミーキの「オリジナル…

『ラーマーヤナ』が多すぎる

おばあさんが夜、 孫たちにこの物語を語りなおすとき、 ヴァールミーキの『ラーマーヤナ』を参考にしているだろうか。 羅刹の咆哮やラーヴァナの笑い声、 あるいはシーターの涙や ラーマのストイックなふるまいを再現するとき、 その演技は誰のものを元にし…

将来への予言

自作を完成して ヴァールミーキがまず気がついたのは、 できあがったものが不完全だということだった。 語る相手が誰もいなくては、 物語の良さは何になろう。 かれの時代の伝統では、 詩人は己の作品を自ら朗詠するのがふつうだった。 あるいは何らかの見返…

『ラーマーヤナ』を語りなおして・その1

これから掲げるのは、著者がインド版原書に付けた序文だ。 ざっと訳しただけで、きちんとした見直しも編集もしていないので、 訳のおかしなところも残っているが、ご容赦願いたい。 ここにはなぜ今新たな『ラーマーヤナ』の語りなおしをしたのかが、熱く述べ…

人事を尽くす

土曜日の毎日新聞朝刊のポプラ社の新刊広告の筆頭に『蒼の皇子』が出ている。 売行きに関してはまだ何も知らせはない。 が、出ました、売れました、という本ではないだろう。 『ラーマーヤナ』という名前は知られていても、 それだけで手に取る人はまだまだ…